癌・ギランバレー☆闘病記

がんと闘う父の記録

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 1月14日、ガンセンターへ転院した。私はどこかに間違いなく父に適した治療を受ける事ができるというような確信を持っていたし、やっと適切な治療を受ける事ができると安心ができた。主治医はセカンド・オピニオンで診察をしたときの医師であった(S医師)。父とS医師が始めて会ったとき明るい対応をしてくれため父も少し安心した様子を見せ、この先に期待をした。
 翌日から、エコーとレントゲン、血液検査をして抗がん剤が決まると言う。他の詳しい検査は前の病院から資料をお借りしていたので、つらい胃カメラ等はする必要が無い。父の体力も少し回復したのか検査室までは歩いて行ったというし、顔色もいい。このまま回復してくれたらいいのにと思う。
 入院から4日目、抗がん剤が決まったため家族が呼ばれた。「TS-1という、胃癌に対して割と効果の上がる薬があるのでそれを使います。経口抗がん剤なので自宅でも治療が出来るのが利点です」と説明を受けた。その中に、余命と言う言葉も、転移と言う言葉も無かった。「40%」と言う言葉が出てきて「腫瘍が40%小さくなる」と私は解釈したのだが、父は薬の効く人が40%だと解釈した。残りの60%は助からないと思っているらしい。今でもそう信じていて、「40%の中に入ったから生きている」と友人に話している。半分以下の生存率だったが、生きているから運が良かったとも言っているが、そう思ってもらっていても差し支えは無いだろう。せっかく運が良いと思っているのだから、そういう前向きな気持ちを持ち続けて欲しいと思う。治療は来週からということで話は終わった。
 翌日、土曜日。突然、嘔吐。そして発熱。この時、看護師さんが発熱に対して神経を使っていることに気がついた。看護師長さんも顔を見せて安静にするようにという指示を残していった。
 熱が中々下がらないので再度家族が呼ばれ、「熱が38度以上の時には抗がん剤治療はできない。熱の原因の一つと考えられる点滴の針を変える。貧血がひどいので輸血をする」という3点の説明を受けた。そして私がVIPルームと呼んでいるナースセンターの目の前の部屋に引越しした。
 熱がある1週間の間、うわごとを言ったり、うなって寝ていたりするかと思うと、いきなり起き上がって元気にしゃべり始めるなど、私を困惑させ、この先に対する不安を一番感じた時期でもある。抗生物質を点滴で入れていて、その薬が効いている間は熱が下がりとても元気そうだが、熱があるときはひどい状態で、熱のある、無いでこんなに差があるのかと言う状況だった。そして、嘔吐したために、食事は禁止され、熱が高いのに水分摂取もダメだと禁止された。熱の高い父にはのどの渇きは辛いため、うがいで対処した。私がいないときには看護師さんに頼んでもいいのにと思うけれど、ブザーを押して看護師さんを呼ぶという行為が自分でできる状態でなかったので、私の時間の許す限り父につく事にした。そして、「美味しいオレンジ・ジュースが飲みたい」と言う。しかし水分摂取は禁止されているので、ジュースでうがいをすすめた。そのジュースでうがいは、とても気持ちよく、美味しかったらしい。「飲んだらダメだよ」とボールを受ける私の意見を無視し、ゴクゴク飲んでしまった。あせって、先生に聞きに行った。「飲んでしまったのです。どうしましょう?」その時受け答えをしてくれたのが後に主治医となる、KK医師。「少しぐらい大丈夫ですよ。我慢しすぎるのは辛いですからと答えてくれた。ほっとした。
抗生物質の点滴と同時に輸血をした。輸血をした翌日、病室へ行くと父はいない。心配していたら、売店へ行ってきたとニコニコしながら戻ってきた。え?だった。まるでぐったりしていた昨日までが嘘のような足取りだったし治療を受けて元気になったのか?と思うほどで本人も熱が高かった事を忘れているかのようでもあった。このまま熱が下がればいいのにと思ったのだが、夕方になると又熱が上がっていく。しかし輸血で体が楽になったのは間違いないと思う。この頃は病院に着いて父の病室までの距離を緊張しながら歩き、病室の一歩手前では深呼吸をしないと部屋に入れなかった。私の精神は、熱が下がって欲しいと言う希望と、下がっていなかったらと言う不安が揺れ動いていて、病人の看護を明るく出来るような精神状態ではない。今の状態でこんな精神状態であるなら、考えたくは無いけれど、もっと父の状態が悪くなったとき、自分は一体どうなってしまうのだろうと、不安を感じた。それに、まだ治療は何もしていない。治療をしないまま悪化をしてしまうのかとも不安になる。しかし、自分が弱気であることに気がついた。今まで以上に明るく父に接しよう、治療が出来るように頑張ろう、そう自分を奮い立たせ病室の前で深呼吸をした。
 金曜日、夕方に熱が38度弱になった。熱が下がった今がチャンスなので、来週月曜日から抗がん剤を始める事になった。この時たまたま出くわしたS主治医と少し話しをする事が出来た。「点滴の針からの熱だったのですね。下がってよかったです。適切な対応をありがとうございました」と言うと「僕は、癌からの熱だと思うのですがねぇ」と答える。しかし、このままほっておくよりは、抗がん剤をしましょうと、言って去っていった。なんとなく不安を感じる言葉だった。
 

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